"目にできるできもの"のことを共通語では「モノモライ」と言います。
この「モノモライ」という言い方に対して地方に固有な言い方は非常にたくさんあります。『日本方言大辞典』(別窓で紹介)の索引に載っている95種類の言い方を紹介しましょう。"目にできるできもの"ということで「め?」で始まるものが多いですね。
「メモライ」「メモレ?」「メモレ」「メモラ」「メボレ」「モライ」
共通語の「モノモライ」という言い方の語源ですが、これは目にできものができた時のおまじない、つまり "ものをもらう"という動作からきていると言われています。例えば、"よそのおうちに行って、何かもらって食べれば治る"や"3軒のおうちからお米をもらって食べると治る"とかというものです。これと同じように"もらう"をキーワードとする言い方として、九州では筑後地域や大分県で使われる「メモライ」という言い方があります。なまって「メモレ?」「メモレ」「メモラ」「メボレ」などと言うこともあります。また長崎県には単に「モライ」と言う地域があります。
「メイボ」「メボイト」「メボ」「(メ)カンジン」「ゼンモン」
「メイボ」という言い方がありますが、これは「メボイト」が語源だと言われています。「メボイト」とは"目のほいとう"という意味です。"ほいとう(陪堂)"とは、元々禅宗の言葉で、"お坊さんの食事のお世話をすること"だったのです。それが"食べ物などをもらって回ること"を意味するようになりました。この「メボイト」がなまって「メイボ」「メボ」という言い方が生まれました。ここでも"もらう"がキーワードになっていますね。
「メボイト」は広島県・岡山県・島根県・鳥取県にまとまり、「メイボ」「メボ」は、それを取り巻くように山口県・広島県南部・四国・兵庫県・京都府・滋賀県・三重県に見られます。この他に天草で使われる「(メ)カンジン」「ゼンモン」という言い方も
"ほいとう"の漢語表現「勧進」「禅門」に基づくものです。
「インノクソ(犬の糞)」や「オヒメサン(お姫様)」
面白い言い方として「インノクソ(犬の糞)」や「オヒメサン(お姫様)」があります。これは、民族学の言葉である"タブー"による言い方です。つまり、直接そのことを言うと良くない、縁起が悪いということで、言葉の言い換えをするんです。それが目のできものについて、わざと汚い言い方をして遠ざけようとして「インノクソ」という言い方が生まれたと言われます。宮城県で使われる「バカ」という言い方も同じような理由で生まれたようです。また、タブーとは逆に美化した言い方をしようとして「オヒメサン」という言い方が生まれたと言われています。
伝統的な方言の世界を見ると、福岡市を含む九州の広い地域でこの「インノクソ」「オヒメサン」が使われています。しかし、若い人たちでは、共通語の「モノモライ」がよく使われるようになっています。また元々は山口県で盛んだった「メイボ」が、北九州市方面に入ってきて、最近は福岡市あたりでも聞かれるようになりましたね。
目のできものを表す言い方は地域によって大きく異なるので、どんな言い方をするかでその人がどの地方で生まれ育ったかがある程度予測できますね。