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キナ

キナか顔してどげんしたとな?
みかんば食べすぎた―。

「キナ」って何?
共通語の「黄色」を表します。北部九州を中心とした方言で、「キナか紙」や「あのキナは澄んどる」などのように使います。

共通語で基本的な五色(赤・青・白・黒・黄)の言い方について考えてみましょう。
「アカ」「アオ」「シロ」「クロ」「キ」
「キ」だけが一音節で、他はすべて二音節ですね。この二音節をとる言い方は、紙や鉛筆など、名詞を修飾する連体形の時に「赤イ紙」「青イ鉛筆」などのように「イ」をつけて形容詞化します。しかし、「キ」は「キイ紙」「キイ鉛筆」などとは言いませんね。「黄色イ紙・鉛筆」などのように「色」という言葉を入れて形容詞化します。まず、これで黄は基本的な色の一つなのに、言葉の面では少し特殊だということに気づいてください。

「黄なる」?「る」=「キナ」
昔はどうだったのでしょう?11世紀初めの『源氏物語』の例を見てみましょう。

白き色紙、青き表紙、黄なる玉の軸なり。
絵は常則(つねのり)、手は道風(みちかぜ)なれば、
今めかしうをかしげに、目も輝くまで見ゆ。          
 『源氏物語』・絵合

これは、宮中の女房たちが左右に分かれて、自分たちが持っている物語の絵を自慢し合っている場面です。この中で白と青は「白き」「青き」と記されていますが、黄は「黄なる」という表現になっています。同じように名詞を修飾する場合、赤・黒も「赤き」「黒き」となりますので、この時代も現代と同じように黄だけが違った言い方をしていることになります。
「黄なる」はこの時代に使われていた形容動詞「黄なり」の連体形です。これから「る」の落ちた形が「キナ」の語源の言い方になります。

名詞 形容動詞 形容詞
黄なり  
 
黄色 黄色なり  
  ←赤い・青い・白い・・・
    黄色い
 
名詞の言い方は、奈良時代(8世紀)の「黄」が一番古く、この「黄」を元にして上のように「黄なり」という形容動詞が作られました。この「黄なり」は奈良時代から明治時代まで使われていましたが、話し言葉では時代とともにだんだん衰退しました。
この次に出てくる言い方が「黄」に「色」をつけた「黄色」です。確実な例は室町時代(15世紀末)に見られます。この「黄色」を元にして、「黄なり」ができたように「黄色なり」がほぼ同じ時期に生まれました。明治時代まで使われますが、「黄なり」に比べると一般的でなかったようです。
そして、この「黄色」が「赤イ」「青イ」などのように形容詞の「イ」語尾を取って、「黄色イ」という言い方ができました。この言い方は江戸時代の終わり頃(19世紀初め)に出てきており、共通語としては歴史の浅い言い方なんですよ。
古い言葉がよく残ると言われる九州ですが、やはりここでも三つの系統の中で一番古い「黄なり」の流れをくむ言い方が残っていますね。

 どこで使われとうとかいな?
九州での具体的な使い方は、名詞の「黄色」に対して「キナ」(「このキナがよか。」など)、形容詞の「黄色い」に対して「キナカ・キナイ」(「キナカ顔しとーね。」など)があたることになります。
形容詞の場合についてみると、福岡県・佐賀県・長崎県・大分県・熊本県辺りで「キナカ」「キンナカ」「キーナイ」「キンナイ」などが使われています。それに混じる形で「キナ・キーナ」が使われます。
ただこれはお年寄りの世界のことで、若い人になると、福岡県出身の場合、8?9割の人が「黄色イ」という言い方を使っています。