私は今でこそホラー映画を好んで観る方ではないが、別に苦手でもなんでもなく、昔は劇場でのオールナイトのホラー映画特集なんかも友人を誘って楽しんだものだ。そんな中で巡り会ったのが78年製作の『ゾンビ』。現在では「ホラー映画の古典的名作」などど称されているが、そんな褒め方など陳腐にしか感じられない、奇跡的傑作であることは、まだ20代前半の私でもすぐに理解できた。ホラー・ファンから神と崇められるジョージ・A・ロメロ監督による『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』に次ぐ“リビング・デッド”プロジェクト第2弾(原題は「ドーン・オブ・ザ・デッド」)で、この後『死霊のえじき』(原題「デイ・オブ・ザ・デッド」)へと続く。
細かい説明もなく、いきなりゾンビが増え続けて人間を襲う世の中になっている。すばらしい導入部だ。地獄のような都市からの脱出を試みるSWAT隊員たちとその仲間。ようやくたどり着いた郊外の巨大なショッピングセンターで得た束の間の平和だったが、乱入して来た暴走族によって再び地獄の日々が訪れる。大筋はこれだけ。しかし閉じられた空間で繰り広げられる、人間対ゾンビ、そして人間同士の戦いの連続は、全く飽きることなく画面に釘付けにしてくれる。マイナー・カンパニーによる低予算映画だけに、今の水準で比較すると特殊技術のレベルはそう高くないが、特殊メイクの名人トム・サヴィーニの仕事は、当時としては画期的なものだったはずだ。スプラッター的表現は思ったほど多くなく、「それだけ」を売りにするホラーとは一線を画していると考えていい。むしろ近未来サバイバル・アクションという位置付けの方がわかり易いかもする。
この映画の特徴は、まず舞台がショッピングセンターであるため、非常に明るい空間で展開するということだ。普通は恐怖を全面に出すには、暗い場所を舞台にするというのが基本だが(大抵この手の映画では、殺人は夜中に起こる)、ここでは恐怖は基本的にすべて目に見えている。それに加え、店の中では常に能天気に明るいBGMも流れていて(このBGMが映画が終わってもずーっと耳に残って離れてくれない)、悲惨な戦い場面もすべて背景は普通の日常と同じだ。こういう世界観が独特のテイストを生み出しているのだろう。つまりゾンビの恐怖そのものよりも、極限の状況に置かれた人間の生態を映し出すことに主眼があると言える。今年観た作品では『ミスト』と設定やテーマがよく似ている。あちらも正体不明のモンスターのお陰でスーパーマーケットから外に出られなくなる話だった。
この映画がホラーという括りでなく、ドラマとして成立しているのは、作者の社会批判が明確であるためだ。批判されているのは大量消費社会で、舞台が何でも手に入るショッピングセンターであることがミソ。ゾンビは人間だったときの習性で、ノソノソと店に集まってくる。彼らは正体不明のモンスターではなく元人間である。ここで描かれるのは人間の飽くなき欲望であって、それは映画を観ている私たちに痛烈に投げかけられたものだ。ロメロ監督お見事。でもショットガンでゾンビの顔が吹き飛んだり、ゾンビが人間の××を○○する場面もあるので、どうしてもそういう場面が嫌な方は、残念だがこの名作をお薦めすることが出来ないかもしれない。ああ、本当に残念だ。