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オール・ザット・ジャズ

先月フェリーニ監督の『8 1/2』をご紹介したあと、今月の放映作品を眺めていたら、なんとこの作品のミュージカル版(?)かと公開当時(80年)話題になった『オール・ザット・ジャズ』を見つけた。別の局での放映なので、まったくの偶然なんだろうが、これも何かの縁ということで、取り上げることにした。と言っても、カンヌ映画祭のパルム・ドール受賞作品(黒澤明監督の『影武者』と共に)で、アカデミー賞でも9部門のノミネートで4部門受賞という堂々たる名作だけに、ご覧になった方も多いに違いない。

この作品は、ボブ・フォッシー監督の自伝的内容の映画化である。自身ダンサー出身で、振付や舞台演出で名声を得たフォッシーという人は、頽廃的な雰囲気の異色作『キャバレー』でアカデミー監督賞を受賞し、その後非ミュージカルの『レニー・ブルース』でも高い評価を得た。フェリーニ版と同じく、創作活動に関わる人物がその過程でいかに苦悩と喜び、挫折と達成感が交錯するかが描かれる。ここでの主人公(つまりフォッシーの分身)ジョー・ギデオン(ロイ・シャイダー)が手がけるのはブロードウェイのミュージカル・ステージで、映画はジョージ・ベンソンの「On Broadway」に乗って、100人規模のオーディション風景からスタートする。台詞がほとんどないまま、鮮やかな群舞とソロ・パフォーマンスを交え、次々とメンバーが選ばれていくシーンの鮮やかなこと。四六時中くわえ煙草の主人公は、才能はあるが、天才肌にありがちな不摂生な生活。酒、薬、女、すべてに対して依存症とも言えるような状態で、それ以上に仕事中毒でもある。ステージ演出と並行して手がける映画の編集作業(明らかに『レニー・ブルース』)では、製作者から予算と期間の大幅な超過を非難されるが、それでも手を加えれば加えるほど内容が良くなっていくのだからやっかいだ。

印象的なシーンがある。彼の小学生くらいの娘もダンサーを目指している。愛人とその娘が、父親に内緒で練習したとてもかわいい振付のダンスを自宅で披露し、それを目を細めて見つめるギデオン。仕事に熱中するあまりまともに構ってやれないことがあっても、子供に対する思いはよき父親のそれであることを映し出している。こういった人物描写が作品に幅を持たせているのだろう。後半は彼が心臓発作を起こして手術を受け、ベッドの中で幻想のステージに立つ。客席にいるのはこれまで自分と関係があったすべての人々、そして若き日の自分だ。まさしく『8  1/2』のラストを彷彿とさせる展開。こちらはシェイクスピアのように「人生はステージだ」と喝破していうように見える。劇中を通して彼の幻想の中に現れるのは、白い衣装で優しく微笑む美女(ジェシカ・ラング)。彼が唯一本心を吐露できる相手であるようだ。天使のように清らかな外見だが、破滅に導く死神のような存在に見えなくもない。そして最後には・・・

一人の演出家の人生を描くだけでなく、ブロードウェイという華やかな世界の舞台裏をたっぷり覗けるという楽しみもまたこの作品の見どころだ。心臓発作の手術シーンと公演延期の金勘定のシーンをだぶらせるなんて、悪趣味一歩手前ではあるが。フォッシー監督は87年にベンチで妻と腰かけているときに、「気分が悪い」とつぶやいて息を引き取ったという。その時彼の脳裏にはどういったステージが展開されていたのだろうか。また、ギデオン役のシャイダーも今年に入って世を去った。70年代を代表する映画人たちがまた次々に舞台裏に消えていくようで寂しい。


フジマルタカユキ
1960年熊本生まれ。
中学生時代にテレビ洋画劇場にかじり付いて映画の魅力にハマる。ジャンルにこだわらないが、特に好きなのはマカロニ・ウエスタンかも。小・中学生の3人の子供たちを映画ファンにすべく画策するも道半ば。でも最近の作品って刺激が強くて子供に安心して観せられるものが意外と少ないような気もするのですが・・・。 本職は私大職員です。

オール・ザット・ジャズ
1979年/アメリカ/監督:ボブ・フォッシー/131分

(c)1979 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.
ブロードウェイの振付師兼演出家でもあったフォッシー監督の自伝的ミュージカル。圧倒的なダンスシーンと幻想的な描写の数々が見もの。カンヌ映画祭パルムドール受賞。
ロイ・シャイダー、ジェシカ・ラング