今年中に『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』が公開予定の、スティーヴン・スピルバーグ監督の代表作のひとつである『未知との遭遇』。当時の興行記録を塗り替えた大ヒット作『JAWS
ジョーズ』に続く大作として、78年に公開されている。ユニヴァーサルやパラマウントが多いスピルバーグ作品にしては珍しく、コロムビア映画が製作した。彼はこの作品には相当なこだわりを持っていることは明白で、最初の公開版からほどなくして新たなカットを追加(一部削除)して「特別編」を製作、長くその版が定番となっていたが、98年にDVD化のためにまた編集をしなおした「ファイナル・カット版」を世に送り、いまではこれがスタンダードになっている。今回の放送はそのヴァージョンである。(DVDやブルーレイ・ディスクではすべてのヴァージョンが収録されたものもある。いい時代になったものだ。)
内容はといえば、原題の"Close Encounters Of the Third Kind"(第三種接近遭遇)が示すとおり、人類が初めて異星人と遭遇する出来事を描いたもので、身も蓋もなく言ってしまえば、ただそれだけの映画である。『E.T.』のように地球に降り立った異星人と子供が出会って騒動を巻き起こすわけでもなく、ましてや『宇宙戦争』のような生存をかけたガチンコのバトルを展開するわけでもない。UFOの出現に驚き、次第にそれに取り付かれ、家族と決別してまでも「あちらの世界」と接触しようとする普通の男を描いたものだ。その男を演じるのがリチャード・ドレイファス。前作『JAWS
ジョーズ』に続いて主演となった彼は、その風貌やキャラクターから、スピルバーグの分身のような人物を演じている。テレビで『十戒』を観たがる子供に無表情なまま「五戒までならいい」とつぶやく一方、『ピノキオ』を観ようと大はしゃぎして逆にあきれられたり、大人の形をした子供という役がぴったりハマっている。
それ以上に成功したキャスティングは、政府の異星人接触プロジェクトのリーダー的存在となる科学者にフランスの映画監督フランソワ・トリュフォーを起用したことだ。スピルバーグの映画人としての原点ともいえる『大人は判ってくれない』などの映像作家は、役者として「演じること」を巧みに回避しながらも(プロの役者じゃないのだから当然だが)、学校教育のはみ出し者だったという二人の共通点を考えると、これまたスピルバーグの分身として役を与えられたように思えてならない。そう、これはストーリー、キャスティング、表現方法などを含めて徹底したスピルバーグのプライベート・フィルムのような作品で、それゆえに編集を繰り返して永遠の未完成作品として位置しているのだと思う。UFOとのコンタクトに音楽を媒介としているところも彼らしいセンスだ。ラスト20分の遭遇シーンの光り輝く絢爛たる映像も当時話題になったものだ。
エンディング・クレジットではジョン・ウィリアムズの音楽が流れるが、そのなかでさりげなく「星に願いを」のメロディが挿入される。これこそディズニー映画『ピノキオ』の有名な挿入歌だ。こんなところまでこだわり抜いたスピルバーグの想い。今見直すと結構ヌルいところも多いのだが、この作品を愛する人が多いのは、他の作品にない監督自身の特別な思い入れが感じられるからに他ならない。最近の大人向けになった作品群もいいが、まだ子供の匂いがする初期作品も改めて見直したくなる、そんな映画である。
なお、この作品とその製作背景については、町山智浩氏の「映画の見方がわかる本―『2001年宇宙の旅』から『未知との遭遇』まで」(洋泉社刊)に詳しくある。興味のある方はぜひお読みいただきたい。