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愛と悲しみの旅路

90年代初めに出会った一冊の本によって、私は太平洋戦争中の在米日系人が被った苦難の歴史を知ることになった。本のタイトルは「ローン・ハート・マウンテン―強制収容所の日々」(エステル石郷著)。1941年の日本軍による真珠湾攻撃が行われた翌年、米軍司令部が「軍事的必要性」を理由に西海岸在住の全日系人に対し「保護的拘留」を宣言した。この本には、理不尽で差別に満ちた政策の犠牲となって仕事を追われ、絶望と悲しみのうちに土地を離れるか、収容所に隔離された人々の生活の様子が、筆者自身によって描かれた豊富な挿絵とともに綴られていた。作者は実際にカリフォルニアやワイオミングの収容所で夫と共に生活を強いられた人物である。この本を原作として日系人監督のスティーヴン・オカザキが制作した短編ドキュメンタリー映画『収容所の長い日々/日系人と結婚した白人女性』は、90年のアカデミー賞同部門の最優秀賞を受賞し、わが国でも話題を呼んだ。この作品は受賞後間もなく某局でTV放映され、私も幸運にも観ることができた。戦時中に日系移民がこのような過酷な日々を送らなければならなかったことなど全く知らなかったことを恥じることしきりであった。(1988年に賠償補償を求める法案が可決され、90年から約6万人に対して賠償金の支払いが開始された。)

この作品はその短編ドキュメンタリーと同時期に制作された劇映画で、日系二世の女性とアメリカ人青年とのラヴ・ストーリーを軸としながら、その家族の激動の人生をスケール大きく描いた力作だ。当時の日系人社会の風俗や日常生活、広大な土地に再現された収容所の威容などといったプロダクション・デザインが良くできているだけでなく、キャスティングされた実際の日系人俳優が登場人物たちをリアリティ豊かに表現することで、物語に説得力を持たせている。日本の歌謡曲(?)とジャズが風俗描写にどちらも等しく重要な役割を持たされているところなども気が利いている。

ロサンゼルスで日本人向け映画館を営む日系一世、ヒロシ・カワムラの娘リリー(タムリン・トミタ)は映画館で働く元労働活動家のジャック・マクガーン(デニス・クエイド)と恋に落ち、両親の猛反対にもかかわらず結婚した。娘ミニも生まれ幸福な生活を営んでいた2人だったが、ジャックの組合運動絡みでいさかいが起こり、リリーはミニを連れて実家へ戻ってしまう。そこへ降ってわいたような日米開戦、リリーの父はスパイの嫌疑を受けてFBIに連行される。やがて戦火の激しくなる中ジャックは徴兵され、日系人は収容所に強制移住となったため2人は離ればなれに。リリーの2人の兄はそれぞれ日本人とアメリカ人として生きる道を選択し、日本への強制送還と米兵としての戦死という悲劇的な結末を迎える。ジャックは軍を脱走し収容所へ戻るが、やがて逃亡の罪を問われ刑務所送りになってしまう・・・。

イギリス人監督のアラン・パーカーは、数ヶ月前に『ザ・コミットメンツ』を取り上げた際に音楽絡みの話題でご紹介したが、もう一方で彼は非常に優れた脚本家であり、重厚なドラマを巧みに作り上げる才能の持ち主であることも忘れてはならない。さしずめこの作品などは、そういった彼の本格的なストーリー・テラーとしての実力を最高に発揮したものとして記憶されることだろう。彼のフィルモグラフィーからすると、日系人の歴史を描くなど想像できなかっただけに、その着眼点の意外性に感心したものである。しかしながらアメリカはともかく、日本ですら一般的には大きな話題を呼ぶこともなく、興行的には成功したとは言い難かったようだ。原題"COME SEE THE PARADISE"「来たりて楽園を見よ」。なんと格調高いタイトルだろうか。ロシアの女流詩人アークマトバの詩の一行からパーカー監督が書き留めていたものだという。アメリカン・ドリームの希望と絶望を語るものとしてこの作品を手がけたのだが、当時よく使われた手垢のついたような邦題で公開され、題材のユニークさを消されてしまったのがこの作品の不幸だったのかもしれない。


フジマルタカユキ
1960年熊本生まれ。
中学生時代にテレビ洋画劇場にかじり付いて映画の魅力にハマる。ジャンルにこだわらないが、特に好きなのはマカロニ・ウエスタンかも。小・中学生の3人の子供たちを映画ファンにすべく画策するも道半ば。でも最近の作品って刺激が強くて子供に安心して観せられるものが意外と少ないような気もするのですが・・・。 本職は私大職員です。

愛と悲しみの旅路
1990年/アメリカ/監督:アラン・パーカー/140分
第二次世界大戦当時の米国を舞台に、日系2世の女性と米国人青年の愛と、砂漠の収容所に強制収容された日系人たちの苦難の日々を描く社会派ドラマ。
デニス・クエイド、タムリン・トミタ