先月30日にシネフィルにとって忘れられないヨーロッパの巨匠2人が相次いで亡くなった。イタリアのミケランジェロ・アントニオーニの方はすでに引退状態だったが、スウェーデンのイングマル・ベルイマンは久々の監督作品『サラバンド』が昨年公開されたこともあって、まだまだ現役感が強かった(といっても『サラバンド』は最後の監督作品であることを明言して作られたものだったが)。「シネフィル・イマジカ」では以前よりベルイマン監督の作品を毎月特集で放映している。その中から今月は『仮面/ペルソナ』を推薦させていただく。個人的な思い出で恐縮だが、私が大学生の時に今はなき「てあとる西新」(新旧の名作を次々に上映してくれた素晴らしい映画教室!)で観た。ベルイマン作品の中でも最も前衛色の強いもので、正直言うとよく分からなかった。もう一度観たいと思ってもビデオやレーザーディスクでも再発売されず、2002年にDVD化されなければ幻の名作になるところだった。
舞台女優のエリザベート(リヴ・ウルマン)は、仕事も順調、私生活でも理解ある夫と子供にも恵まれて、何不足ない暮らしをしていたが、舞台上で言語障害を起こした後、全身麻痺に陥ってしまう。診療に当たった女医からひと夏の療養を勧められ、看護婦アルマ(ビビ・アンデショーン)と共に海辺の女医の別荘を訪れたエリザベート。不明瞭な彼女の言葉をよく理解し、懸命に尽くすアルマ。やがて二人は患者と看護婦という結びつきを越え、意識を共有するような不思議な関係を築いていく。ある日アルマは、かつていきずりの男たちと浜に戯れ、その結果妊娠した子を堕胎したトラウマを告白する。このことをエリザベートは女医への手紙に綴ってしまい、それを見たアルマと仲違いするが、憎しみの中にも二人には同体感覚が現れるのだった……。
本編の最初と最後に断片的な映像が繋がれる。映写機が発熱してフィルムが焼け付くところや、病室のベッドに横たわる少年がエリザベートの拡大写真を撫でるところなど、どこかヌーヴェルヴァーグ的な暗示に満ちている。音楽もフリー・ジャズ風だったりして、とても刺激的だ。刺激的といえばエリザベートが別荘で見るテレビで修行僧(?)が投身自殺するシーンが映し出されるが、ベルイマンらしくない強烈なイメージで驚かされる。いつものような親子や夫婦関係のドロドロを息苦しくなるほどに暴いていく会話劇に通じるものがあるが、こういったシーンのインサートがこの作品をやや毛色の違うものにしてるように思える。
ストーリー的には特に結末の落としどころがあるようにも思えないのだが、他の映画作家にも大きな影響を与えたことは間違いない。中でもジュールス・ダッシン監督の『女の叫び』(79年)はテーマをダイレクトに反映しているだけでなく、本作のシーンを意識的に挿入して明確な影響を示している(『女の叫び』も全く鑑賞の機会を閉ざされた幻の作品になっている。何とか放映してくれないだろうか)。この後ベルイマン作品の常連となるウルマンの初出演作だが、アンデショーンと瓜二つの女性という設定にぴったりで最初に観たときは驚いた。今観ると二人の個性が際立っていて混同の心配がないので、公開当時より分かりやすいのは確かだ。万人向けではないにせよ、たまにはこういったアート系の作品を鑑賞して知性と感性を磨くのもいい。