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続 荒野の用心棒

 この9月に公開予定の日本映画が旋風を巻き起こす予感がする。いや、そうあって欲しいと個人的に期待している一本の作品、それが三池崇史監督の『SUKIYAKI WESTERN ジャンゴ』だ。源氏と平家が反目する町に流れ者のガンマンが現れ、壮絶な戦いが展開するというめちゃくちゃなストーリー。伊藤英明、佐藤浩市ら予想すらしなかった豪華キャスト。そして日本映画なのに全編台詞が英語という恐るべき暴挙(?)。感動の押し売り映画ばかりが大きな顔をしている日本映画界に挑戦状を突きつけたとしか思えない攻めの姿勢がうれしいではないか。そしてこの映画の発想の原点であり、オマージュを捧げるのが、マカロニ・ウェスタンの古典にして最高傑作、『続  荒野の用心棒』(以下原題の「ジャンゴ」と呼ぶ)である。

 40代以上の映画ファンは知っていると思うが、かつてマカロニ・ウェスタンという映画史上の徒花的なジャンルの作品群が大旋風を巻き起こしたことがある。ウエスタンと言えばアメリカのものであるのは常識であったが、60年代中盤から70年代初頭にかけてヨーロッパ製のウェスタンが作られるようになった。基本的にアメリカの模倣以上のものはなかったのだが、イタリア人が作った一連の作品には模倣ではない強烈な個性があり、ヨーロッパや日本で爆発的な人気を獲得した。64年製作の『荒野の用心棒』がその先駆けであり、『夕陽のガンマン』『荒野の1ドル銀貨』などの大ヒットでブームは不動のものとなる。本作『ジャンゴ』は邦題では『荒野の用心棒』の続編扱いだが、物語の骨格はそっくりとはいえ、別にそういう意図で作られたものではない。

 メキシコ国境のさびれた町で、南軍くずれのジャクソン少佐と、メキシコ人ウーゴ将軍という2人のボスが率いる集団が支配権を争っていた。ある日マリアという女が両方の陣営から裏切り者としてリンチを受けていたが、それを一瞬の早打ちで救ったのが、北軍の軍服に身を包んだ謎のガンマン、ジャンゴ(フランコ・ネロ)だった。棺桶を引きずりながら歩くこの男は、しかしウーゴ将軍と組んでメキシコ政府の金を強奪し、さらに仲間を裏切り金を独り占めしようとする。作戦は失敗し壮絶なリンチを受け、銃を持てない体になるが、満身創痍の中、マリアの命を守るべく最後の決戦に挑む。

 アメリカの西部劇しか知らない人にとって、この作品のテイストはあまりにも特異に感じられることだろう。延々とぬかるみが続く異様な舞台設定に棺桶を引きずる主人公。町にまともな人間はおらず、主人公も正義漢とはほど遠いアンチ・ヒーロー。容赦ない銃撃戦と執拗極まりないリンチ・シーン。どこを取っても血生臭く、死のイメージが付きまとう。アメリカ西部劇が西部開拓精神を肯定的に踏まえてそれをバックボーンとしているのに対し、イタリア西部劇は本作のように切れのあるアクションとギラついた欲望をこれでもかと描きぬく。大ブームの要因となったのは西部劇が本来持っていた「やるかやられるか」の非情な世界を前面に打ち出したためだったに違いない。今月は本作以外にもマカロニ作品がたくさん放映されるので、そのあたりをぜひ堪能していただきたい。今見るとジョン・ウェインの西部劇なんて子供の遊びである。

 『ジャンゴ』はそれだけで完結した小宇宙である。マカロニ数多しと言えど、これほどの独特のテイストを持った作品は類がない。憂いを湛えた表情と青い目が印象的なフランコ・ネロ(『ダイ・ハード2』の将軍役以来見かけないが)も決定的なはまり役。ドイツではこれ以降彼の主演西部劇はすべてタイトルに「ジャンゴ」が付けられたくらいである。ラストのガンプレイのカッコ良さには電撃が走ること、保証する。最後に何よりも素晴らしいタイトル・ソング「さすらいのジャンゴ」!三池監督版ではこれを何と北島三郎が日本語で歌うのだ。今年のレコード大賞&紅白歌合戦のトリはこれで決定である。


フジマルタカユキ
1960年熊本生まれ。
中学生時代にテレビ洋画劇場にかじり付いて映画の魅力にハマる。ジャンルにこだわらないが、特に好きなのはマカロニ・ウエスタンかも。小・中学生の3人の子供たちを映画ファンにすべく画策するも道半ば。でも最近の作品って刺激が強くて子供に安心して観せられるものが意外と少ないような気もするのですが・・・。 本職は私大職員です。

続 荒野の用心棒
1966年/イタリア=スペイン/監督:セルジオ・コルブッチ/94分
メキシコの国境に近い小さな村では、ジャクソン一派とウーゴ将軍一派が激しい対立争いをしていた。そこに立ち寄ったジャンゴが混血娘マリアをジャクソン一派から助けた事により、対立争いに巻き込まれていく。
フランコ・ネロ、ロレダナ・ヌシアック

マカロニ・ウエスタンとは・・
1960年代から70年代にかけて、主にイタリア資本で製作された西部劇。欧米では揶揄して「スパゲティ・ウエスタン」と呼ばれていたが、「荒野の用心棒」本邦公開の際、映画評論家淀川長治氏が「スパゲティでは細くて貧弱だ」と「マカロニ・ウエスタン」に翻訳して紹介したところから、日本ではこの名前で通っている。残酷描写ができなかったハリウッドの西部劇とは異なり、メキシコ~中南米を舞台にした激しいガンファイト、札束や金塊への執着、復讐劇などが特徴で、10年にわたり息の長いブームとなった。ジュリアーノ・ジェンマ、クリント・イーストウッドらスターを輩出した。