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クジラの島の少女

 2003年に公開され、単館ながら非常に好評を得たニュージーランド映画(ドイツとの合作)。先住民族であるマオリ族の村を舞台にして、男系の伝統を頑なに守ろうとする祖父とそれゆえに何かと排除される孫娘を中心とした物語である。現代の生活と伝統文化や風習との関係を描いた作品はここ数年いくつか見られるが、その中でも特に秀作との呼び声が高い。わが国でも女性を排除する伝統を持った文化はいろいろと存在するし、決して異国の特殊な事情というわけではない。その意味ではとても身近に感じられる作品でもある。

 小さな浜辺の村に住むマオリ族。祖先の勇者パイケアがクジラに導かれこの地へ辿り着いたという伝説を語り継ぐ彼らは、代々男を族長として村を守り続けてきた。族長の長男ポロランギは双子の男女を授かったが、男の子と母親は出産時に命を落とす。ポロランギは悲しみに暮れ、一人娘を残して村を去って行った。娘は伝説の勇者と同じパイケアと名付けられ、祖父母のもとで育てられる。パイケアが12歳になった時、村では彼女と同年代の少年たちが集められ後継者育成の訓練が始まるが、女であるパイケアはその訓練への参加を許されない。しかし叔父らの助けを借りながら独力で勇者の技を身に付け、その優れた資質を開花させていく・・・。

 これを単に古い因習に縛られた旧世代と、自由を求める新世代との対比や軋轢と捉えるのは間違いである。その証拠に、少女パイケアは頑固でしばしば自分を嫌悪するような態度をとる祖父を深く愛している。反発するようなことは全くしない。そして自分を苦しめる伝統にすら敬意を払っている。学校のスピーチコンテストで自分の置かれた特殊な立場を素直に告白しても、悔しさを前面に出すことなく、愛する祖父に聞かせたいと涙を流す(祖父は会場に向かうために家を出たのだが、ある事情で姿を現さない)。この場面は本当に感動的だ。彼女の聡明さと健気さがあるために、この映画は深く、力強いものになった。彼女は自分の運命を呪ったりせず、自分で困難を克服し、人生を切り開いていった。伝統文化を安易に窮屈なものとして扱わなかったスタッフやキャストの面々に感謝したい。だからこれを見て「だから相撲を始め女人禁制の文化や因習はただちに変えるべき」という人がいたら、それは少々短絡的だという気がする。周りにいる親類や村人たちも人物描写が的確でとても納まりがよい。ラストでは一気に神話的な世界が眼前に広がり、さわやかな感動を残す。少女を演ずる新人ケイシャ・キャッスル=ヒューズの演技も絶賛され、史上最年少でアカデミー主演女優賞にノミネートされた。

 公開当時は『風の谷のナウシカ』を引き合いに出されていたようだが、私は1993年のアイルランド映画(資本はイギリス)である『白馬の伝説』を思い出した。ほとんど忘れられたような映画だが、こちらも子供が主人公だし、今の時代によくマッチした神話的世界が垣間見れる作品である。


フジマルタカユキ
1960年熊本生まれ。
中学生時代にテレビ洋画劇場にかじり付いて映画の魅力にハマる。ジャンルにこだわらないが、特に好きなのはマカロニ・ウエスタンかも。小・中学生の3人の子供たちを映画ファンにすべく画策するも道半ば。でも最近の作品って刺激が強くて子供に安心して観せられるものが意外と少ないような気もするのですが・・・。 本職は私大職員です。

クジラ島の少女
2003年/ニュージーランド/監督:ニキ・カーロ/102分
ニュージーランドのマオリ族に生まれた少女が、自らの運命を切り開く人間ドラマ。サンダンス映画祭の観客賞をはじめ、各映画祭で絶賛された。
K・C・ヒューズ、ラウィリ・パラテーン