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初恋のきた道

このコラムで中国映画を取り上げるのは初めてだろうか(『インファナル・アフェア』は香港映画だけど・・・)。アメリカ資本も入っているのでタイトルクレジットが英語なのがちょっと違和感があるが、まあいいでしょう。ところで今やアジアを飛び出してハリウッドでも大作に出演するトップ女優になったチャン・ツィイー。彼女のスクリーン・デビューとなった記念すべき作品がこの『初恋のきた道』だ。現代中国映画を代表する名匠チャン・イーモウ監督に大抜擢されてその可憐な美貌で一躍注目された。あまりに可愛すぎる(?)ので、監督のロリコン趣味がどうだとか、彼女のプロモ・ビデオみたいとか、いろいろとどうでもいい批判もあったようだが、確かに彼女を見ているだけで作品鑑賞の大部分が終わった気になった人にはそうかもしれない。しかしこの作品の本質はそれだけに非ず。少女と新任の先生との初恋模様を描いただけではなく、89分という短い上映時間の中で親子愛、師弟愛、隣人愛などを織り交ぜた深い作品なのである。

都会からやってきた若い教師に一目ぼれして、その想いを伝えようとする18歳の少女チャオ・ディ。文盲のディは手作りの料理にその想いを込めて、学校の建設に汗を流す彼の弁当を作った。やがてその気持ちに彼も気づき、いつしか二人の心は通じ合う。しかし、政治状況の変化が押し寄せ二人は離れ離れに。少女は町へと続く一本道で愛する人を待ち続けるが……。

映画は最初白黒でスタートする。父親が他界して母親一人が残されたため、心配して息子が実家に戻る。この母親がチャオ・ディである。最愛の夫を葬儀に出すためには車で町へ行くのが手間がかからないのだが、母がどうしても棺を人手で担いで移動すると言って聞かない。しかも葬儀で使う布を織るのに壊れた機織機を修理してまでこだわる。すべては亡き夫との思い出を大切にしたいがための愛情の表現だ。回想の場面になったら一転して鮮やかなカラー映像になる。農村の四季の描写が息を飲むほど美しい。そしてチャン・ツィイー。お下げ髪を揺らして振り向く表情、恋の相手を見つめる熱い視線、ちょっと不器用な動きで山道を駆ける若い躍動感、どれを取ってもまあ絵になること。ただ、ここでは少女と目の不自由な母親との描写が結構多く、恋に胸を熱くする娘に対するこの母親の愛情がなかなかに味わい深いのだ。それから最後にまた画面が白黒になり、葬儀に父親を慕う教え子たちが大勢集まり、交代で棺を担いで雪の中を進んでいく。多くは語られないが、こういったところに人間同士の繋がりの大切さを忍ばせる。息子が最後に取るある行動も感動的だ。現代の日本が失っている暖かい人間関係が一昔前の中国の農村の中にしっかり残されていた。そんな感慨も持って観た方がずっと楽しめる秀作である。


フジマルタカユキ
1960年熊本生まれ。
中学生時代にテレビ洋画劇場にかじり付いて映画の魅力にハマる。ジャンルにこだわらないが、特に好きなのはマカロニ・ウエスタンかも。小・中学生の3人の子供たちを映画ファンにすべく画策するも道半ば。でも最近の作品って刺激が強くて子供に安心して観せられるものが意外と少ないような気もするのですが・・・。 本職は私大職員です。

初恋のきた道
1999年/アメリカ=中国/監督:チャン・イーモウ/96分
中国の農村を舞台に、初々しい純朴な少女の純愛を描く、ラブストーリー。ベルリン映画祭銀熊賞受賞作。主演のチャン・ツィイー(『SAYURI』)が主人公の村娘をみずみずしい演技で好演。
チャン・ツィイー、チョン・ハオ