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ビヨンドtheシー ~夢見るように歌えば~

前にも同じようなことを書いたと思うが、人一倍音楽好きを自認しているせいか、どうもミュージシャンが主役の映画となると冷静な判断力を失う癖があるようだ。しかも私のお気に入り俳優のひとり、ケヴィン・スペイシーが製作・監督・主演をこなしているとくれば、黙っているわけにはいかない。彼が情熱を込めて描いた実在のスター、それがボビー・ダーリンだ。ダーリンの名前は知っていたし、タイトルになっている"Beyond The Sea"は誰でも聞き覚えのある名曲と言っていい。最近では車のTVCMでもおなじみだし、アニメ映画『ファインディング・ニモ』のエンド・タイトルでも流されていた(というのを何かで読んだ)。ただ彼はフランク・シナトラのようなスタンダード・シンガーでもあったのだが、ロック色の強いポピュラーソングもヒットさせているし、映画でも描かれているように一時期フォークへも傾倒している。まじめな音楽ファンが多い日本では、ちょっとそのあたりの変わり身が評価を下げているような気もする。

 ブロンクスの貧しい家に生まれた彼は、生まれつき心臓が弱く、医者に「15歳まで生きられたら幸せ」と宣告される。音楽家だった母はそんな彼を励まそうとピアノや歌を教え、次第にその才能を開花させていく。ついにテレビ出演で人気を博し、レコードもヒット、映画にも主演するなど順調にスター街道を歩んでいく。映画で競演した新進女優サンドラ・ディーと恋に落ち、反対を押し切って結婚。アカデミー賞にもノミネートされたが、変貌する音楽シーンの中、次第に旧世代のミュージシャンとして人気に陰りがでてくる。体の異変にも悩まされる中、夫婦仲もこじれ、ひとりでキャンピングカーに乗り、家を飛び出していったが・・・

 映画としては単にストーリーを追うだけでなく、自分を主人公にした映画を撮影するダーリンと子供時代を演じる子役との絡みをうまく生かした、ファンタジックな作りになっているのが面白い。母親を巡るエピソードにはホロリとさせられるし、なかなか演出もうまい。しかし何といってもこの映画の最大の見どころは、ボビー・ダーリンの魂が乗り移ったかのようなケヴィン・スペイシーの大熱演だろう。全編吹き替えなしで歌うのだが、これが実にうまい。プロの歌手とは言えないので歌唱力抜群とは言わないが、彼が心からなり切っているためか、テクニック以上の感銘を与えるのではないだろうか。ダンス・シーンも結構出てくるが、これもびっくりするほどサマになっている。これが『セブン』のあの気持ち悪い殺人鬼役と同じ人物とは、全く大した芸人(エンタテイナー)だ。結局のところ彼の真摯な思いが、この作品を単なる物まね伝記映画と一線を画したものにしているのだろう。公開時期が『シカゴ』と近かったため目立たない存在となったが、こちらの方が面白かったという人も少なくない。ミュージカル好きな人は必見だ。


フジマルタカユキ
1960年熊本生まれ。
中学生時代にテレビ洋画劇場にかじり付いて映画の魅力にハマる。ジャンルにこだわらないが、特に好きなのはマカロニ・ウエスタンかも。小・中学生の3人の子供たちを映画ファンにすべく画策するも道半ば。でも最近の作品って刺激が強くて子供に安心して観せられるものが意外と少ないような気もするのですが・・・。 本職は私大職員です。

ビヨンドtheシー~夢見るように歌えば~
2004年/イギリス=ドイツ/監督・出演:ケヴィン・スペイシー/125分
戦後米国のショービズ界で活躍した天才エンターテナー、ボビー・ダーリンの生涯を、名優ケヴィン・スペイシーが自らの監督・主演で映画化した伝記ミュージカル。
ケイト・ボスワース、ジョン・グッドマン