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フルメタル・ジャケット

 クリント・イーストウッド監督の硫黄島2部作が話題を呼び、戦争映画に注目が集まるこのごろだが、かつて70後半から80年代にかけて『ディア・ハンター』や『プラトーン』に代表されるベトナム戦争物が相次いで作られたことがあった。その中で一際異彩を放つ存在となっているのがこの作品である。そりゃスタンリー・キューブリック作品なのだから普通の映画になるはずはなく、何から何まで風変わりで議論を呼んだのも記憶に新しい。キューブリックにとっては本格的ホラーを手がけた前作『シャイニング』から7年ぶりの作品で、57年の『突撃』以来の本格的戦争映画である。ただ、いつもながら仕事の遅い(?)キューブリックらしく、ベトナムものが大抵出尽くした感のある87年(日本では翌88年)の公開となり、期せずしてこれぞ決定版的な扱いで評価された。

驚いたのは前半と後半で全くストーリーとテイストが異なった2部構成となっていたこと。いきなりバリカンで新兵が丸坊主にされるシーンから始まり、海兵訓練所での訓練シーンを克明に描く前半部分が圧巻だ。人格否定など当たり前といった様子で、教官の言葉による徹底的なしごきがすさまじい。人間性を徹底的に破壊し、殺人マシーンとして作りかえられていく衝撃の場面がこれほど見事に描写されたことがこれまであっただろうか。しかしそのしごきで精神を病む若者が起こす反乱が悲劇的な結果を生んでしまう。後半は実践の場の描写になるが、強烈なリズム感さえ備えた前半部分とは打って変わってこれが何とも緊張感に欠けた雰囲気。どこで何が起こっているのか、一般の兵士には良く分からない。戦争に予定も段取りもあったもんじゃないということをこういう具合に表現するのも凡人には不可能だろう。ただラストの銃撃戦は一転して緊迫した描写になるが、その結末はあまりにもあっけなく空しさが漂う。

 ロンドンの郊外にセットを組んで撮影したため、まるでアジアの熱気が感じられない曇天のベトナム市街戦というのも意表を突く。監督が飛行機嫌いだからそうなったのかは知らないが、コッポラ監督(『地獄の黙示録』)のように現地でロケしたらどんな作品になっただろうか。このところ戦争映画というと『プライベート・ライアン』以降リアルな戦闘シーンがお約束になっているが、実は本作こそその先駆け的な意味を持つように思う。ただ本作の映像は構図や色彩が非常に美しく、キューブリック的感性が遺憾なく反映されている。戦場での人間の心理状態や行動を冷徹に描くことにおいて、他に類を見ない卓越した描写だ。結局のところ、過剰な情緒性やスペクタクル、教訓めいたメッセージを排除した作品こそが戦争の本質を描け、真の反戦映画として成立する。そのことを見事に示した驚くべき傑作と言わざるを得ない。


フジマルタカユキ
1960年熊本生まれ。
中学生時代にテレビ洋画劇場にかじり付いて映画の魅力にハマる。ジャンルにこだわらないが、特に好きなのはマカロニ・ウエスタンかも。小・中学生の3人の子供たちを映画ファンにすべく画策するも道半ば。でも最近の作品って刺激が強くて子供に安心して観せられるものが意外と少ないような気もするのですが・・・。 本職は私大職員です。

フルメタル・ジャケット
1987年/アメリカ/監督:スタンリー・キューブリック/123分
厳しい軍の規律と訓練の中で精神的に追い詰められる若者たち。しかし、その最悪な時期を乗り越えても又、死を目前にする戦場という異常な環境の中で、兵士たちの心《良/善》と《悪/邪》のバランスは崩れてゆく。
映像、ストーリーはもちろん、悪態(かなり汚い言葉)からもキューブリックのリアリティへのこだわりを感じる。
マシュー・モディーン
アダム・ボールドウィン