このようなコラムを毎月書いていると、私はあたかも日常的に劇場や自宅で映画を楽しんでいるように思われるかもしれないが、実は自宅で楽しむのはアメリカのテレビドラマの方が主で、映画はたまにしか観ていない。最近では「24」とか「トゥルー・コーリング」、「シックス・フィート・アンダー」などがお気に入りで、いかにJ:COMに普段からお世話になっているかよくお分かりいただけると思う。そういうドラマファンの私が特に好きなのが、ミニシリーズと言われる、4~10回くらいで完結するもの(数年前なら「バンド・オブ・ブラザーズ」最近で「ニュールンベルグ軍事裁判」が印象に残る。考えようによっては長編の
映画作品とも言えなくはない)で、特に感銘を受けた作品がこの「エンジェルス・イン・アメリカ」だ。アル・パチーノ、メリル・ストリープといった超豪華キャストたちの競演、エミー賞、ゴールデングローブ賞などテレビムービー関係の賞を総なめした実績などが宣伝されることが多いが、そういった華々しい印象とは少し違って内容的にはシリアスかつ幻想的なユニークな作品である。
1980年代のアメリカ。エイズという未知の病に脅かされ、人々はこれまで経験したことのない恐怖を感じている。敏腕弁護士や連邦判事書記官といったステイタスの者から名もない一般庶民まで、それは同じだった。ゲイの市民権云々といった議論が出るアメリカの問題は日本人には馴染みにくいかもしれないが、突き詰めれば家族や友人といった身近な人々との人間関係やコミュニケーションの問題を内包するわけで、決して遠い国の苦悩とは言えない。エイズに冒された者、絶望を感じる者の幻想の中に現れる天使の意味は何か。魂の救済か、別世界への誘いか。シリアス一辺倒ではない幻想的な表現を交え、物語は進んでいく。内容が内容だけに観る者を選ぶような気もしないではないが。大物俳優の競演に注目が集まるが、若手の主要キャストも実力派がそろっている。加えて、舞台のオリジナルキャストでもある、看護士役のジェフリー・ライトの存在感はピカイチだ。
トニー・クシュナーの傑作戯曲をマイク・ニコルズ監督が演出している。ニコルズ監督は名作「卒業」があるために古い演出家のように思われるかもしれないが、現代でも屈指の名演出家であることが証明された。正直私も認識を新たにした次第だ。クシュナーという人は馴染みのある人ではなかったが、最近スティーヴン・スピルバーグ監督の「ミュンヘン」の脚本で再び注目されている。
このところ人が変わったように傑作を連発するスピルバーグ監督の中でも特に面白かった「ミュンヘン」の成功はこの人の功績が大だったのか。納得。