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ミステリアス ピカソ 天才の秘密

子供の頃図画工作の類が大の苦手だった私であるが、このところたまに機会があればペン画スケッチなぞを試みるようになった。もちろん個人の楽しみなので家族にもろくに見せたことがない。始めたきっかけというのはイラストレーターの永沢まこと氏が著作の中で、「絵ごころというのは才能のことではなく、絵を描きたいという気持ちのことである」と述べておられたからだ。絵に未だに苦手意識が消えない私のような者にはずいぶんと救いになる言葉である。気持ちがあればOKであるのなら、あとは道具を揃えて対象物を観察すればよい。そう、実際に絵を描き始めると、テクニックそのものより、観察力が重要なのではないかと思うようになってきた。最初は観察力、その次のステップで想像力、そして絵ごころがあれば何とかなる・・・と思う。

つまらぬ前振りが長くなったが、絵に興味を持つ前から見たいと思っていたのが、今回の『ミステリアス ピカソ 天才の秘密』だった。劇映画ではなく、ピカソが実際にどのような過程で絵を仕上げていくのかを克明に追いかける委嘱のドキュメンタリーである。監督は『恐怖の報酬』や『悪魔のような女』の名匠アンリ=ジョルジュ・クルーゾーというのもすごいが、実際にピカソとは交友関係があったらしい。ドキュメンタリーと言うことでピカソの私生活にも踏み込んでいるのかと思いきや、描かれるのは徹底的にスタジオ(?)で絵画制作に没頭する姿とその作品のみというのが潔いではないか。最初に簡単な単色のスケッチで始まり、次第に水彩、油彩とスケールアップしていく。それに応じてキャンバス上を滑るペンの音だけだったのが、様々なスタイルの音楽がさらに音で彩を添えていくようになるというのも効果的だ。観客は淡々と絵が完成されるのを見つめるだけなのだが、一瞬も目を離せない緊張感がある。そういえば同じフランス映画の『美しき諍い女』も、4時間の上映時間中の大部分が絵を描くシーンだったが、ずっと画面に引き込まれっぱなしだったことを思い出す。専門家から見ればいろいろな面白い感想も聞かれるのだろうが、素人の私としては、天才がどの部分からスケッチを始めるのか、どこから色を塗り始めるのか、といった始点の選択が興味深かった。

作品のスケールが大きくなる(つまりキャンバスが巨大になる)と、映画の画面もスタンダードからシネスコ・サイズのワイドになるのには驚いた(もっとも、テレビでは上下に黒いマスクが入るのでかえって小さくなるのだが)。劇場でピカソの大作をスクリーンいっぱいに映し出されるのはさぞ壮観だったことだろう。このシーンはできるだけ大画面のテレビで楽しみたいところだ。なお、ここ描かれた作品の数々はすべてその後破棄され、いまではこの映画の中でしか見られないとのこと。このあたりも徹底して潔い。


フジマルタカユキ
1960年熊本生まれ。
中学生時代にテレビ洋画劇場にかじり付いて映画の魅力にハマる。ジャンルにこだわらないが、特に好きなのはマカロニ・ウエスタンかも。小・中学生の3人の子供たちを映画ファンにすべく画策するも道半ば。でも最近の作品って刺激が強くて子供に安心して観せられるものが意外と少ないような気もするのですが・・・。 本職は私大職員です。

ミステリアス ピカソ 天才の秘密
1956年/フランス/監督:アンリ・ジョルジュ・クルーゾー(「密告」「情婦マノン」)/1時間24分
20世紀最大の画家ピカソの作品制作過程を記録したドキュメンタリー。この映画のために描かれた作品の数々で、天才の創作の秘密に迫る。カンヌ映画祭審査員特別賞受賞。
パブロ・ピカソ
クロード・ルノワール