先月のこの欄で「十二人の怒れる男」を取り上げたばかりではあるが、同じシドニー・ルメット監督による法廷ものの傑作「評決」が放映となれば、これは黙っておくわけにはいかない。あちらは12人の陪審員による白熱したディスカッション・ドラマだったが、この作品は故あって酒浸りの惨めな生活に甘んじる弁護士が、ある事件の弁護を引き受けたのをきっかけにして再び社会正義に目覚め、信念を賭けて巨悪に立ち向かうという人間ドラマである。前半部分はこの弁護士が糊口をしのぐかのように、わずかでも金になる仕事を探して葬儀が行われている家を探し回る情けない生きざまが淡々と描写されていく。その淡々ぶりが徹底していて観ているこちらも寒々としてくるが(舞台が冬のボストンというのも効果的)、担当した事件が悪質な医療ミス隠しに絡んでいることが明らかになってくると、俄然緊迫感のある法廷劇へと急展開していく。いかにも社会派の名匠ルメット監督の独壇場と言っていい鮮やかさだ。
ドラマとしての面白さも一級品だが、この映画の最大の見所は弁護士を演じたポール・ニューマンの生涯最高の名演技だ。製作された82年の時点で57才、ちょうどいい具合に枯れて渋みが滲み出ている。アカデミー主演男優賞受賞は確実と思われたが、「ガンジー」のベン・キングズレーにさらわれてしまった。後に「ハスラー2」で念願の受賞を果たしたが、この作品でこそ受賞させたかったとは世のニューマン・ファンの偽らざる気持ちではなかろうか。加えてジェームズ・メイソン、シャーロット・ランプリングらの脇役陣の存在感も素晴らしい。特にニューマンとランプリングの、電話を介した有名なラスト・シーンでの絡み(?)は強く記憶に残る。ジャック・ウォーデンやエド・ビンズといった「十二人の怒れる男」でおなじみの顔が見られるのもうれしい。
今回の放映ではメイキング特番も併せて観られるようで、これも思いがけずうれしい企画だ。何しろこれだけの名作でありながら未だにDVD化されていないというのだから、貴重なこの機会を見逃す手はない。