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十二人の怒れる男

今月もまた古いモノクロ作品で恐縮だが、紛れもなくアメリカ映画の歴史に残る法廷劇の傑作のひとつである。これを黙って見逃すわけにはいかない。もともとはテレビ作品として製作されたドラマを、同じスタッフで映画用に取り直したということらしい。テレビ版を観て感激したヘンリー・フォンダが製作に加わり、12人の陪審員の中の重要な「8番」を演じた。17歳の少年に父親殺しの容疑がかかり、判決が陪審員の判断に委ねられる。状況は全く少年に不利で、全員一致で有罪の結論が出かかるが、「8番」だけが無罪を主張する。その理由は「有罪と言い切れる確信がない。人の運命を決めるのにろくに話し合いもしないのはおかしい」というものだった。

舞台は話し合いが行われる一室にほとんど限定され、実際の時間と映画の進行が同時に進む、「真昼の決闘」と同じリアルタイムのドラマとなっている。当然アクションよりも会話と役者の表情が重要なポイントになる。舞台設定もうだるような暑さの中、冷房が故障し、途中で夕立が降り出すなど、うっとうしさも重要な要素だ。それだけに陪審員たちの感情の動きが会話にダイレクトに反映されていく。登場する12人のキャラクターも多彩で(しかも女性や黒人などがいないにもかかわらず!)感情的で大声を張り上げる者から、冷静で理知的に議論を進める者まで、実にうまく配分されている。95分間で結論を出すため、部分的には議論の展開が速すぎて不自然な箇所もあるが、回想シーンなどを全く交えずに一気に描ききった脚本と演出のうまさには感服だ。監督のシドニー・ルメットはこれ以降アメリカ映画を代表する名監督として名を上げていくことになった。ラストに密室から外に出て皆さまざまな思いを胸に分かれていくシーンの感動はちょっと言葉では表現できないくらいだ。

この映画の製作は1957年だが、40年後の1997年に「フレンチ・コネクション」のウイリアム・フリードキン監督によるリメーク版が作られたのには驚いた。こちらはジャック・レモンが「8番」を演じていたと記憶する。全体に陪審員たちが高齢化していたが、手持ちカメラを多用してドキュメント・タッチにするなど、うまく工夫された秀作となっていた。わが国でも平成21年から裁判員制度が導入される。賛否はともかく、その前に必ず観ておくべき映画だ。もちろんアメリカの陪審員制度とは厳密には違うが、一般市民が人を裁く立場に置かれるという点では同じである。そうなったらますますこの映画の価値が再認識されるに違いない。


フジマルタカユキ
1960年熊本生まれ。
中学生時代にテレビ洋画劇場にかじり付いて映画の魅力にハマる。ジャンルにこだわらないが、特に好きなのはマカロニ・ウエスタンかも。小・中学生の3人の子供たちを映画ファンにすべく画策するも道半ば。でも最近の作品って刺激が強くて子供に安心して観せられるものが意外と少ないような気もするのですが・・・。 本職は私大職員です。

十二人の怒れる男
1957年/アメリカ/監督:シドニー・ルメット(「評決」「ギルティ/罪深き罪」)/
脚本:レジナルド・ローズ(「シーウルフ」「ファイナル・オプション」)/1時間39分
17歳の少年が起こした殺人事件に関する陪審員の討論が始まり、誰が見ても有罪と思える状況下で一人の陪審員が無罪を主張する傑作法廷劇。 17歳の少年の審理が終わり、12人の陪審員が評決のため陪審室に引きあげてきた。被告は日頃から不良といわれており、ナイフで実父を殺した容疑がかかっている。12人の陪審員は、早く評決を済ませ家に帰りたがっていたが、陪審員の一人が被告の無罪を主張し…。
ヘンリー・フォンダ(「怒りの葡萄」「黄昏」)
リー・J・コッブ(「波止場」「エクソシスト」)
エド・ベグリー(「影なき殺人」「消えた拳銃」)