私がウディ・アレン監督の映画が好きなのは、確かにシニカルでちょっとひねったユーモアのセンスがたまらないというのも理由のひとつである。だが最も重要な要素は、彼のジャズ愛好家としての嗜好が作品の隅々まで染み渡って、言いようのないノスタルジックなムードが醸し出されている点だろう。彼自身もクラリネット演奏家として活動しているし、ニューヨークから決して出たがらないという徹底したこだわりも天晴れである。(それだけに数年前にハリウッドのアカデミー賞授賞式に登場したときは大歓声で迎えられた。)彼の好きなジャズがモダン以前のスイング・ジャズというのもうれしいではないか。ショーン・ペンが天才ギタリストを演じた「ギター弾きの恋」なんて音楽映画としても見事な出来だった。
この「ハンナとその姉妹」は1986年の作品だが、アレン映画の真骨頂ともいうべき秀逸な人間ドラマである。例によって舞台はマンハッタン。ハンナ、ホリー、リーの三姉妹とハンナの夫エリオット、それにハンナの前夫ミッキーなどさまざまな人々が織り成す日常生活のスケッチが、練り上げられた脚本によって深みのある群像劇として昇華される。会話のひとつひとつがユーモラスでハイセンス。つまずいてばかりの人生を送る彼らの姿は滑稽ではあるが、それは社会と深い関わりを持って生きる私たち観る者の人生そのものを写しており、次第に胸に染みて笑えなくなっていくのだ。随所に配されたハリー・ジェームスの朗々たるトランペットの音色はどこまでも暖かく、登場人物たちを背後でやさしく見守ってくれているようだ。
この作品と同じくらい好きなのが「カメレオンマン」という作品だが、こちらはタイトルが災いしたのか(?)ほとんどオンエアの機会がない、幻の作品となった感がある。内容には触れないが(別に高校生がカメレオンマンに変身してニューヨークのビルを飛び回るわけではない)、こちらも必見の傑作だ。初めは面白おかしく笑っていながら、次第に笑いが凍りついてくるという摩訶不思議な映画である。これいつか放映してくれませんか。