ウラジミール・ナボコフの有名な小説「ロリータ」はこれまで主要なもので2度映画化されている。スタンリー・キューブリック監督、ジェームズ・メイソン主演による61年のものと、エイドリアン・ライン監督、ジェレミー・アイアンズ主演による97年の本作で、今月は2本とも「ムービー・プラス」で放映される。こういうプログラミングが映画ファンの琴線に触れるのだ。知名度ではなんといってもキューブリック版が上だろうが、中年男性と少女のインモラルな愛憎劇を映像化するにはいささか時代が早すぎた。しかも主演のメイソン、少女役のスー・リオンともミス・キャストのように思える。ついでながら上映時間が2時間半を越えるというのも少々やり過ぎではなかったか。
一方でこのライン版、あまり話題にならなかったようだが、私はとても好印象を持っている。ある意味純粋であるが傍から見ると滑稽とも醜悪いえる盲目的な大学教授の少女への愛情。この破滅に向かう男の心理を繊細に演じたアイアンズがまずもって素晴らしい。こういう役柄には抜群の実力を発揮するこの名優の面目躍如たる代表作だ。今の時代なら作りようによってはもっとどぎつくセンセーショナルな表現も可能であったろうが、あえて抑制したことで少女との性愛の後ろめたさがかえって強調されているようで効果的だ。描きたくても描けなかった作品(61年版)と、描けるところをあえて抑えた作品(本作)の違いは小さくない。「危険な情事」の監督らしからぬ成熟ぶりだが(「危険な情事」が未熟だったという意味ではない)、製作から日本での公開まで2年のブランクがあったのはこのあたりがどっちつかずに思われたからなのだろうか。
これに加えて素晴らしいのが、毎度のことながらエンニオ・モリコーネの音楽である。決して前面に出ることのない控えめな音量と旋律だが、効果は抜群。
禁断の愛に身をゆだねる二人の心理描写を支えるだけでなく、時代背景や土地の匂いまでもカバーしてしまうスケールの大きさ。この音楽なくしてこの映画の成功はありえなかったと言ってしまおう。これは「ニューシネマ・パラダイス」以降のモリコーネの近作の中でも屈指の名作に違いない。どちらにしてもせっかくキューブリック版も放映されるのだから、この際両方見て比べてみるのも一興である。本作はもっと評価されていい作品だと思うが、ぜひ皆さんの感想をうかがってみたい。