今では劇場で新作映画を観るのはせいぜい年間10本くらいだが、まだ独身で時間と資金に余裕があった頃は年間100本くらいは鑑賞したものだ。一応映画ファンの端くれとしてはなんとか合格ラインだろうか。映画中毒とまではいかないものの、いちばん熱中して観ていた頃に話題となった映画がこの「ストレンジャー・ザン・パラダイス」である。もう20年くらい前になるのかぁ。歳を取るはずじゃ。
一言で言うなら、ゆるーい映画である。90分の3部構成によるモノクロ映画というだけでも普通じゃない。主な登場人物は男2人(ウイリーとエディ)に女1人(エヴァ)で、これが揃って低血圧ぎみの喋り方をし、行動も全く情熱や活力に無縁で、映画的な作為が皆無である。ウイリーとエディは友人だが、エヴァはウイリーの従妹という設定が微妙な距離感を生み出している。しかも二人はハンガリー人で、これに英語を話したがらないロッテおばさんが絡むシーンなど実におかしな空気が流れる。そう、全体にこの映画、空気の流れが妙におかしい。ウイリーが自室でテレビ・アニメを見ながらコンビニ弁当みたいな食事を取るシーン(これをTVディナーという)や、エリー湖を見にドライブに出かけたのに吹雪で全く湖が見えず、三人で背を丸めて途方にくれるシーンなど、取り立てて何があるわけでもないにもかかわらず、クスクスと絶妙におかしいのである。全編のカット割りに黒のフェード・アウトを挿入して、映像に独特のリズム感を付与しているのもユニークだ。主演のウイリー役はフェイク・ジャズ(古い表現だな)のバンド「ラウンジ・リザーズ」のリーダーであるジョン・ルーリー。プロの役者にない飄々とした身のこなしや台詞回しが作品のカラーを決定付けているのは間違いない。現代音楽風弦楽四重奏とコテコテのR&B風ロックというミスマッチ感が冴える音楽の使い方もセンスを感じる。
これが実質的なデビュー作となったジム・ジャームッシュ監督も、その後「デッドマン」や「ゴースト・ドッグ」など個性的な作品を生み出している。個人的には永瀬正敏や工藤夕貴が出た「ミステリー・トレイン」なんかも好きだが、デビューが鮮烈だったためか、まだ決定打に欠けるような気がしてならない。いや、妙に老成せず独特のスタンスで取り続けるのがジャームッシュ流かもしれないが。